芸の神髄を堪能。「第6回シカゴ寄席〜柳家さん喬 独演会」
 



「シカゴ寄席」 presented by M Square, inc
 
 落語界の名門、「柳家一門」を担う人気噺家の柳家さん喬師匠による落語会が、7月21日、シャンバーグ市内の文化ホールで開かれた。この「シカゴ寄席」は今年で第6回目。2006年から9年間、毎年7月にバーモント州ミドルベリー大学の夏期日本語学校に招待され日本語を学ぶ学生に落語を通して日本語と日本文化を紹介する活動を続けているさん喬師匠が、その1週間のプログラム終了後にシカゴに立ち寄り、毎年独演会を開いているものだ。
 今回も申し込み定員を上回る、110人の観客で会場は満員御礼。今回が初めての来場という方も約半数ほどおり、小さなお子さんの姿もちらほら。開演前には「助六弁当」が配られるなど、“寄席”のムードが漂った。
 
 本格古典落語の第一人者として知られる さん喬師匠は、寄席での出演回数が年間で最も多い落語家の一人といわれており、日本舞踊で培ったその立ち居振る舞いの美しさにも定評がある。今回の高座では、前半は薄藍色の縞の絽(着物)をはんなりと着こなし、後半は伝統的な紋付羽織袴のりんとした姿で、小話「長短」、滑稽噺「船徳」、人情噺「妾馬(めかうま)」の三席、休憩をはさんで約2時間半にわたってたっぷりと聞かせてくれた。





 落語の楽しみのひとつが、「枕」(本編に入る前の振り)。気の長さは正反対という友人同士の滑稽なやり取りを描いた小話「長短」では、人の性格はみなそれぞれ違うが、夫婦や友人ではものの見方考え方が正反対の者同士がかえってうまくいくことが多いというネタ、江戸の若旦那さんがにわか船頭になって起こるドタバタ劇「船徳」では、日本の古き良きお祭り文化に見る、世代を超えた情や絆のつながりの深さ、江戸っ子職人とお大名の珍妙な問答が楽しい「妾馬」では、前座(楽屋でのお世話係)時代に経験した落語界の亡き先代名人たちの"茶癖"などの知られざる秘話や、「名代を継ぐ」ことの意味合いといった枕がそれぞれ披露され、場を和ませてくれた。
 
 何と言っても、人情噺と世話物を得意とする さん喬師匠の真骨頂は、最後の一席「妾馬」。江戸の大名とがさつな江戸職人八五郎との間で交わされる、身分特有の言葉の取り違えによるとんちんかんなやりとりに、場内は大爆笑。無礼講をいいことに傍若無人にしゃべりまくるほろ酔いの八五郎と、それを優しく相手する大名との人間臭さあふれる会話に笑いながら、出自は違ってもしょせんは皆同じ人間同士なのだという温かい気持ちに見る側を落ち着かせてくれる。同時に、異国での生活で忘れがちだった日本語の多様さ、美しさに改めて触れ、少し胸が熱くなるのだった。アメリカという人種の坩堝のなかで、また世界で絶えることなく繰り返される争いの日々のなかで、今、この演目を味わえたことにほっとするものを感じずにはいられなかった。
 
 ひとしきり笑ったあとは、人情噺の“見せ場”だ。大名のお世継ぎを産んで天上の人になってしまった妹を見て、「立派になったなァ。おめえがこんなに立派になったって聞けば、婆さん、喜んで泣きゃあがるだろうよ」と素の兄に戻る八五郎。「殿さま、こいつは気立てがやさしいいい女です。末永くかわいがってやっておくんなせぇ」と涙声になるシーンでは、客席の涙腺がいちどにゆるむ。鼻をすすり上げる音があちこちから聞こえてきた。噺家、さん喬師匠、してやったりの瞬間だ。
 物語の情景のみならず、その場に登場しない人物でさえも客の脳裏にあざやかに浮かび上がらせてしまう、さん喬落語の魅力を存分に味わった珠玉の夏の夜だった。この「シカゴ寄席」、今後シカゴの夏の風物詩になっていくに違いない。来年も、再来年も・・・。



■柳家さん喬師匠 インタビュー

― 16年前から、落語と小話を通じた日本語教育活動を続けていらっしゃいますが、そのきっかけは?
 もともとは、筑波大学で日本語を学んでいらっしゃる海外からの留学生に落語をお聞きいただいて、日本語や日本文化の勉強に少しでも役立てていただけたらということでやらせていただいたのがきっかけでした。そのうちにだんだんと活動が広がっていくうちに、海外でも日本語を勉強している方が大勢いらっしゃるということで、(アメリカバーモント州)ミドルベリー大学の夏期日本語学校で10年前から落語をお聞きいただくようになったんです。それがヨーロッパにも広がって、ヨーロッパでお勉強なさっている方々へのご協力もさせていただいております。これには国際交流基金の方々もご尽力されています。

― 海外の学生さんの日本の古典芸能に対する興味や関心について
 「故きをたずねて、新しきを知る」と言いますが、日本人というのはどうも自国の文化を大事にしない人種なんで困ったもんです。逆に外国の方のほうが、その国の文化を知ろうとして大事にしてくださいますね。アニメという文化をきっかけで日本語を勉強したいという方、一度日本に行ったことがあるからという方、動機はいろいろ違います。けれどもやっているうちに日本の文化に非常に興味を持ってくださり、短期留学なさったときに寄席へ顔を出してくださったり、そういう学生さんがけっこういらっしゃいます。
 私は「日本文化を勉強してください」だなんて思わないんです。日本語のお勉強のお手助けができればと。教材として落語を聞いていただいてどのようにお力になれるか、と気持ちですね。

― ミドルベリー大学の夏季日本語学校の最後日では、学生さんたちが高座に上がるそうですね。
 学生さんが自分たちでちゃんとした落語を、短いんですけれど教授やみんなの前で発表するんです。日本語のしゃべり方で、面白くもつまらなくもなる。それを聞いて学生さんたちが大笑いしてくれる、その姿を見て「ああ、今年も来てよかったな」と思いますし、学生さんも(高座を終えて)舞台袖にに来た時に、わぁっと飛び上がって喜んでいる姿を見るのもとてもうれしいものです。皆真剣ですからね。教えられてやるんじゃなくて、自分たちが今何を求めているか自分たち自身がわかっていますから。日本は「押しつけの教育」っていうんですか・・彼らはそうじゃなくて今自分たちが何を学びたいのか何を学んでいるのか、自分たちで自覚をしていますから、すべてに積極的だし心を開いて吸収しようとしていますね。とてもうれしいしありがたいです。

― 外国人のお弟子さんについて
 外国人の弟子をとるってことはありえません。これから先はどうなるかはわかりませんけど。明治時代には日本生まれのドイツ人の方がいらっしゃいましたけどね。弟子ではないですが、個人的にはトルコの学生と、ブラジル人の教え子がいました。トルコの学生はこっち(アメリカ)で日本語を学んでから日本で落語を勉強して。その後トルコに帰って人前で落語をやったら「受けませんでした」ってメールが来ましたけどね。当たり前だって。日本語の文化のまんま言葉だけトルコ語に変えてもだめだって、ね(笑)。




■柳家さん喬師匠 プロフィール

本格古典落語の第一人者。“ライブでの落語”を大切にしており、寄席での出演回数も年間で最も多い落語家の一人で、東京や全国各地で開催される独演会は常に満員。人情噺は秀逸で、「子別れ」「芝浜」「柳田格之新」「文七元結」等を得意とするが、滑稽噺や芝居噺でもその芸域の広さと力量を発揮している。五代目柳家小さん一門の高弟として弟子や後進の育成に努める他、落語を通じて日本文化を世界に広めようと精力的に活動中。米国では、2006年から毎年7月に1週間、学生に落語や小噺を教える文化教育プログラムを行っている。国立演芸場金賞受賞、文化庁芸術祭賞、2013年には芸術選奨文部科学大臣賞(大衆芸能部門)を受賞。2006年(平成18年)から毎年7月に、米国ミドルベリー大学夏期日本語学校に招かれ、落語を通して外国人に日本語と日本文化を紹介する活動を続けている。2007年の秋には、国際交流基金ブダペスト日本文化センター主催の「落語を通じてハンガリー人を笑わせる」試みに協力した。




             (2014年7月21日 文責/撮影: 長野尚子 Text by Shoko Nagano )



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