樺沢さんの精神医学的アメリカ考察



著者略歴 樺沢紫苑
(本名 佐々木信幸)


1965年、札幌生まれ。札幌医科大学卒。
精神科医。

2004年4月より、イリノイ大学シカゴ校
精神科勤務。

著書
「北海道スープカレー読本」(亜璃西社)


 朝日新聞、週刊ポストなどに記事執筆。サブカルチャー、アメリカ文化に詳しい精神科医として、テレビ、ラジオ出演など、精力的に活動中。

メールマガジン「シカゴ発 映画の精神医学


バックナンバー

             ソロンタンにオフクロの味を感じる


 アメリカに住んでいると、時々日本食が恋しくなる。シカゴ・ダウンタウンに住んでいてマイ・カーのない人は、アーリントンハイツのミツワまで出かけるのは至難の業である。電車とバスを乗り継いで行けないことはないが、うまく乗り継いで1時間半はかかる。往復で3時間はかかるから、一日がかりの外出となる。そんなわけで、私は2年間シカゴに住んでいるが、ミツワには1回しか行ったことがない。

 ダウンタウン在住者でマイ・カーのない人はどこで日本食材を買うのかというと、シカゴ・フード (Chicago Food Corp)で買っているという話である。「話である」というのは、ずっと前から聞いていたし、行きたいとは思っていたのだが、実は行ったことがなかったのだ。ということで、日曜日の散歩がてらで出かけてみた。場所は、3333N  Kimball。ブルーラインのベルモント駅で下車して、Kimball Aveにそって2ブロックほど北に歩けば、5分かからずにシカゴ・フードに着く。


(写真1 ) シカゴ・フード外観

 巨大なハングル文字の看板。見逃しようがない。

ダウンタウンから非常に近い。私はブルーライン沿線に住んでいるので、40分かからずに着いてしまった。乗換えがないので。想像以上に近かった。



(写真2) シングル文字の広告

 店の壁一面に書かれたハングル文字の広告が、異世界の入り口のように見えて胸がときめく。店の中に足を踏み入れると、そこにはあらゆる韓国食材が売られていた。壮観ともいうべき光景である。ミツワの韓国版と言えばわかりやすいだろう。ミツワに全ての日本食材がそろっているように、シカゴ・フードには全ての韓国食材がそろっている。韓国料理は大好きなので、それを見ているだけで胸がときめいてきた。しかし私は、それら韓国食材よりも、もっと興味深いものを発見してしまった。


(写真3、4) 「食堂」というのにふさわしい一角

 店の奥のほうにある食堂である。お世辞でも清潔とは言いがたいが、ほとんど空席がないほど、お客で賑わっているではないか。スーパー内の探索は後にして、まずは腹ごしらえしなくてはいけない(笑)。ビビンバ、冷麺、プルコギなど、20品以上の代表的な韓国料理がメニューにある。ラーメンやウドンといったものもあった。その中から、瞬時に私が選んだのは、「ソロンタン」である。ソロンタンを知っている人は、かなりの韓国食通だと思う。ソロンタンとは「雪のように白いスープ」を意味し、牛肉と牛骨をじっくり煮込んで作ったスープのこと。

実は丁度、無性にソロンタンを食べたいと思っていたのだ。数日前、日本から送ってもらっている雑誌「料理王国」を読んでいた。それには、ニューヨークの特集が載っていて、ソロンタンのおいしい店「ハンバット」が紹介されていた。実は昨年ニューヨークを訪れたときに、この「ハンバット」でソロンタンを食べたいと思っていた。しかしながら、私の家内に、韓国料理屋は服ににおいがつくから嫌だと、却下された悲しい思い出がある。12年前にソウルで食べたソロンタンの味が忘れられないが、日本の焼肉屋でソロンタンというメニューは見たことがない。東京の本格的な韓国料理屋ならあるのかもしれないが、私が住んでいた札幌では見たことがない。

というわけで私にとっては、12年ぶりのソロンタンとの再会ということになる。そんなソロンタンをめぐる様々な思いを胸に、ソロンタン(5ドル)を条件反射的に注文する私であった。私の隣には、耳ピアス、鼻ピアスをした奇妙な白人の若者が一人で、うまそうにスープ付きの定食を食べているではないか。アメリカ人の姿も多くはないが、チラチラと目に付く。注文してから出てくるまで10分以上かかった。適当に暖めて出すだけだと思ったが、調理場をのぞきながら待っていたが、一つ一つ丁寧に調理しているようであった。さて、ソロンタンとの対面である。

写真 5 ソロンタン定食 キムチなど3品がついている
写真 6 ソロンタンのアップ 白濁スープが美しい

真っ白なスープが実に美しい。そして、青い刻みネギとの色彩コントラストが素晴らしい。スプーンで一口飲む。アッサリと上品な味わい。しかし、牛のうまみがよく出ている。シンプルながらも、食べだすと止まらないスープである。塩味が全くついていないようなので、多少自分で塩味を整える。日本人にはアッサリしすぎて物足りないかもしれないが、このアッサリ感がたまらないのである。アメリカに住んでいると「アッサリとして物足りない」ということは滅多に体験するものではないから・・・(笑)。

入っている具は、牛タン、牛モツ、シラタキである。牛タンがまたアッサリと煮込まれていてうまい。スープカレーを食べる時のように、ご飯をスプーンに入れてスープに浸すと、別な味わいを楽しめる。付け合せのキムチはかなり辛く、これまた本場の味だなあ、と実感。たった5ドルでこれだけ楽しめるとは・・・。

 かなり誉めてしまったが、みなさんがあまり期待してこのソロンタンを食べに行くと、ガッカリするに違いない。この味は、「激ウマ」というようなものではない。ソロンタンは日本で言えば味噌汁のようなものだ。ソロンタンとキムチとご飯。それは、日本食でいうところの、お味噌汁とお漬物とご飯に他ならない。このソロンタン定食を通して、韓国料理の味を懐かしみながら、実はソウル経由で日本のオフクロの味を思い出していた、というわけだ。家で食べるお味噌汁、それは「激ウマ」というほどのことはないが、毎日食べても飽きないシンプルな旨さがある。そんなお味噌汁に通じる郷愁を感じたからこそ、ここまで感激してしまったのだろう。

 さて、食欲も満たされたところで、シカゴ・フードの探索を始める。といっても、ミツワほど広くはない。野菜はミツワのようにたくさんはないけども、アメリカのスーパーよりはいろいろある。モヤシが大量に売られているのは韓国らしい。当然ながら、焼肉用の肉スペースは充実している。アメリカのスーパーにはない薄切り肉もある。特徴的なのは、シーフードが充実していること。貝類も種類があるし、刺身もマグロ、サーモンと種類は少ないがある。ここでお刺身を買って手巻き寿司のパーティーをしたという話も聞いたことがある。ウニ一折9ドルは安い。冷凍の魚は、日本からのものもあった。日本食材に関してもかなりそろっていた。調味料は一通りそろっているし、カツオブシやイリコなんかもある。その他、ゴマ、ワカメ、ノリなどもあるし、ウドン、ソバ、カレーなどもあって、ちょっとした日本食剤の買い出しには困らないだろう。

日本食材も買いたいところだが、これだけの韓国食材を前にして、それらを買わずに帰ることは私にはできない。キムチ、冷麺、韓国餃子、トック(韓国モチ)、コチジャン、ビビンバの素、韓国のり、薄切りカルビ肉とプルゴギ用のタレ。おもしろがって買っていたら、80ドルにもなってしまった。これで1ヶ月くらいはコリアン・フードが楽しめそうだ。

アーガイルではベトナム小旅行を楽しんだが、ここシカゴ・フードでは韓国小旅行が楽しめた。シカゴにいながら本格的な地元料理と、異国情緒が楽しめるという。これもまた、シカゴの大きな魅力である。

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