Kuni のウィンディ・シティへの手紙



著者略歴 馬場邦子

アメリカの通信社東京支局、及びシカゴ支局で金融をカバー。サンノゼ・マー キュリー・ニュースの 東京支局長アシスタントを経て、フリーに。主にジャパン・タイムズにアート・ レビューを執筆。
2002年より、シカゴ郊外アーリントンハイツに住み、2008年日本に帰国。
公立小学校英語講師。


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市民と歩みながら特撮の聖地を目ざす須賀川!

「特撮の神様」円谷英二氏の故郷に円谷英二ミュージアム
2020年特撮アーカイブセンターが設立


第1章        光の国へ向かって

 「特撮の神様」と呼ばれる円谷英二氏の故郷、福島県の須賀川市は、永遠のヒーローとなったウルトラマンの世界と私たちを繋ぐという夢のような街である。その背景には、2013年(平成25年)5月にウルトラマンの故郷「M78星雲 光の国」と須賀川市が姉妹都市になるというドラマティックな出来事があった。以来、牡丹が咲き芭蕉も訪れた江戸情緒の残る東北の地に、懐かしい昭和のウルトラマンやお馴染みの怪獣たちのモニュメントが次々に現れ、訪れた人々を釘付けにしている。

 円谷英二監督は、1954年に公開された、日本の特撮怪獣映画の原点である『ゴジラ』で特殊技術を担当し、その後も数多くの特撮映画を作り続け、日本の映画界に「特撮」というジャンルを打ち立てた。そして後年はテレビに活躍の場を移し、1963年に制作会社「円谷特技プロダクション」(1968年「円谷プロダクション」に社名変更、通称「円谷プロ」)を設立、ウルトラマンを世に送り出した。

 2019年(平成31年)1月11日、円谷英二ミュージアムがこの街の中心地、須賀川市民交流センター「tette 」(テッテ)の5階に開館した(第2章でこのミュージアムを詳しくレポート)。地元の人々にとって長年の悲願だったという。2月には特撮アーカイブセンターが2020年(平成32年)須賀川に建設されると須賀川市から発表された。また、今年のNHK大河ドラマ『いだてん』に使われているミニチュアセットも須賀川で撮影されている。この東北の地が日本の特撮の拠点になりつつある・・・・・・まだ寒さの残る3月末、須賀川を訪れた。

 大宮から郡山まで東北新幹線で1時間、郡山から1両編成の電車に10分強乗ると須賀川駅に着く。のどかな駅の壁には、ウルトラマンの変身ポーズとマント姿のウルトラファミリーに「須賀川市は、M 78星雲 光の国と姉妹都市になりました」と迎えられる。


駅構内にウルトラマンのお馴染みグングン人形のポーズ

 駅前広場には、ライトグレーの角張ったウルトラマンの銅像が空に向かって右手を掲げ、殻のような岩を突き破って力強く飛翔している姿が目に飛び込んでくる。これは2013年(平成25年)7月に設置された姉妹都市提携記念モニュメント像で、テレビで見ていたどのウルトラマンより筋肉隆々で雄々しい。姉妹都市提携のシンボルと言えるこのウルトラマンこそまさに私たちを光の国に導く案内役にふさわしい。

姉妹都市提携記念モニュメント像

 この駅前広場から出て、街の中心部を貫く松明通りをしばらく歩く。ゆったりとした山河の風景を横目に須賀川橋を渡ると、左手にウルトラマンタロウがスクッと立っている。足付きが少年のようでいかにもタロウらしい。

 数十メートル進むと、通りの右手に力強くがっしりしたウルトラマンエース、その先左手に交差した両手をそっと胸にあてた女性らしいポーズのふくよかなウルトラの母が何かを訴えるかのように佇む。

ウルトラマンエース

ウルトラマンタロウ

 また数十メートル進むと、右手にスマートなゾフィーがキリリとした姿勢で待ち構え、反対側に自信に満ちた宇宙恐竜ゼットンが憎たらしげに道を塞ぐ。

宇宙恐竜ゼットン

 腕を広げたベムスターに対するは、「帰ってきたウルトラマン」ことウルトラマンジャック。腰に左手を当て、ウルトラスパークを右手に掲げる。このように、車道を挟んだ向かいの歩道に、ウルトラマンとそれに対応する怪獣が配置されている。昭和のウルトラマンたちが次々に蘇る!

 私たちが子供の頃熱狂し、毅然と怪獣を迎え撃つウルトラセブンに対するは、白い体に黒の模様の宇宙怪獣エレキングが両手を構え、長い尻尾はクエクネととぐろを巻いて上を睨んでいる。

ウルトラセブン

 
宇宙怪獣エレキング

 モニュメント以外に街灯や旗にウルトラヒーローや怪獣たちのシルエットがカラフルな色で描かれ、あちこちに影絵のイラストが点在する。往年のオープニングを飾ってきた影絵を主に使用している街灯で、一気に昭和の時代が蘇る。セブンやタロウやウルトラの母のマスクデザインを模したユニークな背の高い街灯も目を引く。

街のあちこちに円谷英二氏の足跡が見られる。

 街の中心部まで来ると、ウルトラモニュメントのハイライト。茶色の古代怪獣ゴモラが睨みをきかすので困っていると、反対側にすぐに友達になれるちょっと頼りなげなピグモンが長い指をだらんと揺らしながら、ベンチで寂しげに座っている。「ピグモン、大丈夫だよ」と思わず抱きしめたくなるほどの可愛さと哀愁を感じる。

友好珍獣ピグモン

 このピグモン側の通りを少し進んだ先には、初代ウルトラマンがスペシウム光線を放つポーズで私たちを守る。お馴染みのやや猫背で細身の逆三角形の体型。腰からお腹辺りのスーツのシワや指先まで伸びる正確なポージングがキマっている。ウルトラマンの真向かいにお金を食べるカネゴン。くすんだ濃いベージュの造形がカネゴンのユーモラスな姿態をよく表現している。

ウルトラマン

コイン怪獣カネゴンと遊ぶ人も!

 近代的な建物が少なく、商店や銀行などの建物が低いため、モニュメントが突出している印象を受ける。ウルトラマンのモニュメントはかつて円谷プロのあった祖師ヶ谷大蔵が有名だが、怪獣のモニュメントは須賀川に初めて設置された。最初に2015年(平成27年)3月ウルトラマン、ウルトラセブン、エレキング、ゴモラ、2015年(平成27年)11月にウルトラマンジャック、ゾフィー、ベムスター、ゼットン、2016(平成28年)11月にウルトラの母、ウルトラマンエース、ウルトラマンタロウ、2017年(平成29年)11月にピグモンとカネゴンが設置された。どれも素晴らしい完成度の造形だが、特に最新の2体はまるで今にも動き出しそうな気配すら感じるぐらいリアルな出来である。

 「デザイナーや製作者側(円谷プロ)も力は入っていたと思います。円谷英二さんの故郷であり、特撮の聖地という想いが関係者の皆さんには必ずあるんですね。有難いなと感じています」と当時須賀川市観光交流課の担当者で、現在須賀川市文化スポーツ部文化振興課係長の渡辺耕樹氏が設置の頃を振り返る。

ピグモン像の近くに、「SHOT M78 大束屋」というウルトラマンのグッズ販売店があり、円谷英二氏の写真や貴重な資料も展示されている。円谷英二氏が兄のように慕い、彼を支え続けた叔父一郎氏の孫、円谷誠氏が経営していて、生家そばに珈琲店も営んでいる。

SHOT M78 大束屋

 誠氏は、円谷英二生誕100年の2000年ごろに会社員を辞め、この店をオープンした。店に訪れるお客の質問に丁寧に答える誠氏の真摯な対応から、円谷英二氏の軌跡を次世代に伝えていこうという気概を感じた。ウルトラマン像や円谷英二ミュージアムのあるtetteが出来て訪れる客も増えて、一部ショップの動きもあり、地域の活性化を期待していると誠氏は言う。

誠氏は英二氏には1、2回しか会ってなくて、声をかけて喋るようなタイプの人ではなかったらしい。「普段はどっちかっていうと、知らない人から見ればそっけない感じだが、 気さくではあったと思う」と当時を振り返る。「相当一郎も英二さんには特別に期待もしてたし、厳しく言ったり、逆に尊敬もしてたんじゃないかなと思う」と一郎氏の英二氏に対する思いを語る。

円谷家の家族と大束屋の従業員
前列右が英二

英二との思い出を語る円谷誠氏後ろに
英二と叔父の一郎の写真が見える

 この松明通りのウルトラマン像近く、円谷英二氏の中町の生家の跡に、須賀川青年会議所による近未来的なデザインの記念碑が建っている。須賀川商工会議所発行の「まちなかマップ」によると、御影石、鉄、アルミの3種類の素材を使用し、それぞれが近代、現代、未来を表現していると書かれている。グレーの石碑には、子供の頃の思い出とともに「彼の偉大なる『愛と創造力』に敬意を表して、此処に記念碑を設置する。1996年2月 須賀川青年会議所」と刻まれている。特撮ファンなら思わず手を合わせずにはいられないだろう。

円谷英二メモリアルモニュメント

 さて、須賀川市のウルトラ熱はこの松明通りだけでは終わらなかった。ここからが本番。まず、市庁舎の正面玄関前「光の広場」に立ちはだかる一番大きなウルトラモニュメントに度肝を抜かれる。赤いブーツを履く宇宙警備隊大隊長のウルトラの父が市庁舎のシンボルとして君臨しているのだ。ウルトラの父は、須賀川市と「M78星雲 光の国」が提携して誕生した仮想の都市「すかがわ市 M78 光の町」の町長として、市民たちを見守っているということだろう。

市庁舎前にそびえ立つウルトラの父像

 メールでこの仮想都市に住民登録もでき、300円で住民票も発行される。2019年4月現在の住民数は1万5000人を超えた。(「すかがわ市M78光の町」HPよりhttp://m78-sukagawa.jp/)ここまでやる徹底した須賀川市のウルトラマンとの連携ぶり。

 そして、この市庁舎の中も光の国の特徴をトコトン演出しているのにも驚く。6階の高さ45メートルのウルトラ展望台は、ウルトラの父の身長と同じ高さで、ウルトラマンと同じ目線で市内が見渡せるという特撮ファンには堪えられない憎い演出となっている。


 市民が使う「ウルトラ会議室」や「光の会議室」のガラスはウルトラワールドのイラストで囲まれている。白い影絵のイラストは、松明の燃える火のような木の葉の揺れる中に、1人佇むミステリアスなウルトラマンの穏やかで強靭な精神を際立たせる。「こういう事業の取り組みをしていると周知していき、幅広くいろんな方に見てもらいたい」と渡辺氏は言う。こんな遊び心満載の市庁舎を利用できる須賀川市民が羨ましい。

市民が打ち合わせに使える「ウルトラ会議室」

 初めてこの地を訪れ一番驚愕した事実は、この市庁舎と市民交流センターの建物は東日本大震災で全壊したものを取り壊し、建て直されたということだ。2011年(平成23年)3月11日の震度6強の震災でこの建物の周辺はほとんど住めなくなったという。しかし、そんな過去の不幸な事実を感じさせないほど、洗練された新市庁舎と復興した街並みであった。


 2017年(平成29年)5月に旧市庁舎跡地にこの新市庁舎がオープンし、2019年(平成31年)1月に総合福祉センター跡地に新しい市民交流センター「tette」がオープンした。展望台が突き出た全面ガラス張りの新市庁舎と真新しいグレーのモダンな建物の市民交流センターが街並みに溶け込んでいる。この二つの象徴的な建物は「市長がよく使う『創造的復興』の一つ」と須賀川市民交流センター企画課長三浦宏美氏が言う。

 図書館のあるtetteの1階には、松明通りのモニュメントより大きく精巧なウルトラマンの宿敵、レッドキング、キングジョー、バルタン星人の像が子供達のプレイスペースを囲んでいる。
バルタン星人の前で遊ぶおばあちゃんと孫!

迫力のレッドキング!


5階に2メートルものゴジラ像が睨みをきかす円谷英二ミュージアム、4階に須賀川地域コミュ二ティFM局「ウルトラFM」と、こちらも円谷ワールド全開で遊び心たっぷりに市民を2階から4階の図書館にある本の世界へと誘い込んでいく。

 須賀川市のHPに掲載されている市民交流センターの基本コンセプトによると、「創造的復興」を目指し、「市民文化復興のシンボル」また「中心市街地活性化も中核施設」としての役割を担っていくという。東日本大震災で甚大な被害を受けた須賀川市が逆境を乗り越え、特撮という日本特有の文化を街づくりの一つのテーマにするという強かさには舌を巻く。

 これまでの道のりを振り返って、須賀川市文化スポーツ部文化振興課によると、円谷英二監督という須賀川出身の偉人を大事にしてきた文化というものが元々須賀川にはあったという。1987年(昭和62年)から須賀川青年会議所が町おこしの一環として「ゴジラの里構想」という、円谷英二氏の意思を継承し顕彰する様々な活動に取り組んでいた。その中の大きな取り組みとして、1992年(平成4年)に誕生した青年会議所による「サークルシュワッち」という外郭団体が「ウルトラファミリー大集合」というイベントを毎年4月に開催している。(鈴木和幸著『大空への夢 特撮の神様円谷英二伝』大月書店発行より)

 今年4月20日21日は「ウルトラヒーローズEXPO 2019 in SUKAGAWA」が2日間開催され、最新のウルトラマンシリーズの『ウルトラマンR/B』に出演した俳優陣が須賀川に来る。最近若者にも人気急上昇中の「ウルトラヒーローズEXPO」の東北での開催は初めてだ。

 2013年(平成25年)須賀川市政60周年の5月5日、円谷プロの全面協力で光の国と須賀川市の姉妹都市の提携が発表され、このような観光事業に特化した行政の街づくりが始まった。この年、円谷プロも会社創設50周年にあたった。「須賀川市としては、円谷英二さんという郷土の偉人やウルトラマンの力をお借りして、新しい須賀川市の魅力というものを出したかった」と渡辺氏は言う。

 2011年(平成23年)の東日本大震災後の円谷プロが始めた「ウルトラマン基金」などの一連の福島支援の流れもあり、それが街づくりに一緒に取り組むきっかけにつながり、徐々にモニュメント像も設置されていったという。最初に紹介した街の中心地を貫く松明通りのウルトラモニュメントは現在全部で13体となった。今後ウルトラマン80やウルトラマンレオが姿を現す日もそう遠くないだろう。

 この記事の冒頭に紹介した須賀川駅前の飛翔するウルトラマン像を囲む、ワークショップに参加した市民たちの笑顔の写真が市の広報誌に掲載されている。市のシンボルとなったウルトラマンとともに歩む須賀川市民の姿を感じさせる。

 須賀川市郊外に位置する福島空港にもウルトラマンや怪獣のモニュメントは存在する。両手を腰に手を当てた巨大なウルトラマンティガが入り口で出迎えてくれる。空港内にはウルトラマンのグッズ販売コーナーや怪獣と対決するウルトラマンエースの雄姿も見られる。外にはジェットビートルと小型ビートルが空を仰いでいる


平成3部作の代表ウルトラマンティガ

ウルトラマンポスト


 「東日本大震災の後、暗く何をやっていいかわからない時、何か楽しみが欲しい。ウルトラファミリー大集合などのイベントやると、子供達から歓声が起こり、明るく喜んでいる姿がいい。おじいちゃん、おばあちゃんが孫を引っ張ってきてくれて、お父さん、子供と3世代が一緒になって喜んでくれるので、(ウルトラマンは)最高のコンテンツだと思う」と福島県観光交流局空港交流課の有賀一徳氏は語る。

 震災で甚大な被害を受けた福島の一つの街が、円谷英二という偉人を通して、心から地域を愛し、彼を誇りに思うことで、光の国への橋渡しを担い、今まさに日本の特撮の拠点になりつつあるのを実感した旅であった。  


〜第2章へ続く〜


仮想都市「すかがわ市 M78 光の町」ウェッブサイト: http://m78-sukagawa.jp/
住民登録無料 住民票の発行は300円
住民票発行場所:須賀川観光協会(須賀川市観光交流課内)8:30-17:00  土日祝日、年末年始休み  須賀川市コミュニティプラザ(JR須賀川駅舎内)8:30-17:00  年末年始休み

引用文献:『大空への夢 特撮の神様円谷英二伝』鈴木和幸著 大月書店2019年発行  『すかがわ坂物語 まちなかマップ』須賀川商工会議所発行
参考文献:『まっぷる特別編集 福島須賀川』
参考・引用サイト:
仮想都市「すかがわ市 M78 光の町」
HP http://m78-sukagawa.jp/
須賀川市HP  http://www.city.sukagawa.fukushima.jp/

SHOT M78 大束屋:TEL 0248-73-2488  須賀川市中町15アクシーズビル1F
 営業時間 10:00-17:00 火曜定休日

大束屋珈琲店:TEL 0248-73-2488 須賀川市中町15
営業時間 7:30-19:30 火曜定休日

ウルトラヒーローズEXPO 2019 in SUKAGAWA:
4月20日21日 須賀川文化センターにて
https://www.ultra-expo.com/sukagawa/2019/


文責:馬場邦子  撮影:馬場邦子、馬場裕也  
協力:馬場裕也


2019年4月記



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