夏のハーパーカレッジで詩を創作する


このクラスをとった女生徒と教授 
左からダビドビッチ教授、ポーラ、レティーシア、ビッダ
 夏のハーパー・カレッジは、学生が減るせいかゆったりしている。 学期としては圧縮され、4ヶ月ある秋と春の半分の長さで、同じ内容をやってしまおうというのだから、せかされるだろうに・・・教授たちも短い夏の授業のひとときを楽しんでいるかのような感さえある。

 私も夏学期は2ヶ月であっという間に終わってしまうのに、一気に1クラスで3クレジット取れてしまうというおいしい学期に魅せられ、今年も1クラスだけ登録した。2004年の1月からハーパーに通い始めて、1学期1クラスのペースでクレジットのクラスをこつこつ取っている。

 4回目の夏学期は、「詩の創作」というネイティブでない日本人としては、かなりチャレンジングなクラスだ。ただ、花々が咲き乱れるシカゴで一番美しい夏の季節だから、より高 いインスピレーションが湧き出て、詩を創作しやすい。これは、やってみてわかったことだけど。そして、一番の収穫は、若い生徒たちのまぶしい感性を垣間見ることができたということだ。

 指導は、溢れる笑顔がチャーミングなダビドビッチ教授。現・近代文学、クリエイティブ・ライティングなども教え、ハーパー・カレッジのクリ エイティブ・ライティング・クラブのアドバイザーや「ポイント・オブ・ビュー」という年1回ハーパー・カレッジから発行される創作雑誌のアドバイザーもこなすエネルギッシュで魅力的な女性。2人の女の子を持つ多忙なシングル・マザーでもある。今回は、ラッキーなことに、たった5人の女生徒という超少人数で、密度の濃いクラスとなった。
笑顔が美しいダビドビッチ教授

 「ライティング・ポエトリー」 (バーバラ・ドレイク著)というテキストをもとにさまざまな詩のフォームを学ぶ。ウオーミングアップの言葉遊びとして、名詞、動詞、形容詞を好き勝手にみんなが羅列して、各自その言葉を使って詩を即興で書いたり、各自が思いついた好き勝手な秘密を書いて、アトランダムに回しそれを受け取った人がそれをもとに自由な詩を創作していく。みんな面白いように言葉や凝った表現がほとばしり出てきて、書いていくうちにその意外な展開や方向性に自分たち自身が驚く。そして、各自が課題に基づいた詩や自由な詩を何編も書いてきて、お互いに編集したり、批評し合うという刺激的なワークショップが授業の核となる。
        


夏のハーパー・カレッジは花々が咲き乱れて、池や噴水に囲まれて気持ちが いい。
 2人の小学生の息子を持つ私のざわざわしたせわしい駐在生活の中で、宿題として無理やり詩を書くよう自分を追い込まないと、創作するエネルギーが湧き出てこない。英語で表現するというむつかしさが伴うが、1日のうち子供たちがいない間、1、2時間庭で瞑想しながら、脳をはりめぐらして、少しづつイメージをつむぐ。

 サマーブリーズに揺れる葉っぱのひそやかな音のざわめきを聞いたり、日本ではお目にかかれない胸がオレンジで黒い上品な鳥たちのつましやかな動きを見ていると、不思議に少しづつ言葉がでてくる。みんなそれぞれのスタイルでやはり瞑想にふけりながら、詩を創作しているという。

 ある生徒は、音楽を聞きながら。ダビドビッチ教授は、「創作に絶対私は、コーヒーが必要。」と微笑みながら、可愛く言う。
      
 教授の話では、面白いことにどちらかというと男の生徒より女の生徒の方が、スピリットのこもった作品を書く傾向にあるという。「実際、今回のクラスでも女生徒だけのせいか、気持ちがこもっていて、本音をだしている詩が多い。」と教授は語る。やってみるとわかるのだが、詩を創作するというのは、自分のプライベートな部分をさらけださないといいものができないから、大学のクラスでも数少ないお互いに本音で議論し、かなり痛烈な批判にも合うという密度の濃い授業になった。
       
 私を除く4人の女生徒たちは、みな若いフルタイムの大学生で、創作意欲の高い人たちだった。そのうちの1人、大柄で落ち着いた雰囲気のポーラは、シェークスピアのような古典的で形式的な詩を好み、彼女なりのピュアでロマンティックな世界へ私たちを引き込んでいった。ジャーナリズムを専攻したいという知的な美しさを感じさせるポーラは、アメリカを代表する現代女流詩人の1人で人気のあるシルビア・プラスの伝記を読むほど熱心にこのクラスと向き合っていた。教授が、子供の頃に読んだ本をもう一度原作を読んで自分の詩に取り入れるのも面白いと勧めてくれたのに対し、ポーラは、ルイザ・メイ・オルコットの名作「若草物語」の姉妹たちの台詞を自分の詩に取り入れて、見事に現代版「若草物語」をよみがえらせるのに成功していた。いつの時代も姉たちが妹たちに干渉する言葉は変わらないと彼女は自分の詩で証明してくれた。また、ポーラの情熱的なキスを題材にした3部作「Practice Makes Perfect」 は、若いみずみずしい感性と躍動感に溢れているので、一部を紹介したい。
   
      [ 略 ]
             We're going to the championship!
             You took my hand in congratulation.
         Outside, the cool breeze collided
             with my sweaty body.
             Upon the rock I sat
             awaiting your instruction.
             Eyes open or closed?
             Lips wet or dry?
             After a moment, nothing mattered.
             The kiss was over.
             Can we try again? 

   [ 略 ]

  (from No. 1 of "Practice Makes Perfect," by Paula Grassmuck)  

 そして、交通事故で怪我した足を松葉杖で引きずりながらも遅刻も欠席もせず、このクラスに通ったビッダも熱心に自分独自の詩の世界を創り上げていた。教授がシュルレアリスティックな詩を紹介して、その傾向の作品を創るよう私たちに勧めたが、シュルレアリズムというと画家のダリなどの不気味なイメージしかない私にはなんともピンとこない。しかし、見るからに聡明さがただようビッダが、不条理でちょい不気味なおとぎ話のような詩を自分の世界に確立するのに成功していた。ほっそりとした美しいビッダのいったいどこからそんなイメージを持ってくるのかと驚く一方、そのアンバランスな意外性がかっこいい。逆立ちしても、まねできない若い感性がまぶしい。「もしもあなたが死んだら、皮を剥いて小さな人形を作り、私のポケットに入れる」という衝撃的で残忍なイメージのスタンザ(1節)で始まる「Our Fairy Tale Ending」 を一部紹介しよう。


        When you're dead
             I'll peel some your skin off
             and create a miniature figurine
             of you for my pocket
               [ 略 ]
             I'll eat you
             on my way down
             so I, just like you,
             can have you in me too.       
   
      (from "Our Fairy Tale Ending," by Vida Mikalcius)

 もう1人素晴らしい才能を秘めたレティーシアというメキシコ系の女生徒は、日々の自分の生活をもとにリアリスティックな人間模様をズバリと描き出してみんなをあっと言わせた。彼女の強いボイスに教授は惹かれていたようだった。私は、彼女が第2言語として英語を学びながら、そこまで創作できる才能に敬服した。

 バイトをしながら若い女の子たちが小声で「今日私は生理なの。」「妊娠しちゃった。」などと語らせる独特の詩は、赤裸々な内容でこちらをドキッとさせる。彼女の話では、友達との日々の何気ない会話をそのままメモして詩に引用したり、生活の一場面をズームしながら、自分なりに変えて詩にしていくという。

ハーパー・カレッジキャンパス内。
各ディパートメントごとに建物があちこ ちにあり迷う。


 一見高校生のような童顔のレティーシアであるが、確固とした強い意思の持ち主なようで、イラクに行ったときの戦争体験をもとに短編小説や詩を書いていると言う。イラクでの体験をもとに書いた詩は、パワフルで独特の言葉をちりばめて仕上げた力作だ。彼女が後半このクラスに来なくなったので、彼女の許可がとれず、この詩を紹介できないのが残念だ。いつの日か、レティーシアがアメリカの文壇に登場して、新風を巻き起こすのではないかとなどと期待してしまう。

 このクラスのワークショップでいつも他の人の詩に手厳しくアグレッシブな批評をだしていた4人目の女生徒ブリッタは、言葉をリピートして音楽を表現したり、私には理解できないドラッグのことを書いたりとユニークな題材を詩にしていた。ブリッタのシビア・プラスのスタイルで書いた「Chasing the Bus」という詩の冒頭の部分を紹介する。

             Blue bus why won't you
             slow down and stop
             leaving me stranded in downtown Charleston
             where things move slow

             Black pavement turned gray by use
             has jagged black lines where
             construction workers have tried to
             fix the cracks and crevices of
             the pepper shaker street    

                [ 略 ]         
  
      (from “Chasing the Bus,” by Britta Grand)

 さて、かんじんの私はというと・・・書きに書いた。ファイナル・プロジェクトでは、合わせて200行以上もの詩を提出しなければいけなかったが、過去の経験談や現在のことなど、自分の心を引っ掻くように、1編1編を搾り出し200行以上もの詩を提出した。日本の大晦日を描いたり、父が教えてくれたおにぎりを題材にしたりと、なつかしい子供の頃の思い出とじっくり向き合える貴重な機会となった。しかし、ワークショップで、私の詩は生徒たちから文法上の間違いや表現の不自然さなどを細かく指摘され、ずたずたに編集され、わかっていたもののネイティブとの英語力のあまりの差に深く落ち込んだ。他の若い生徒たちにはない日本文化や経験で勝負しなくてはと意気込んだものの、言葉の壁は厚い。ただ、スピリットをこめて書いているということがにじみでてたのか、教授が「クニコの詩には(彼女なりの)ボイスがある。」と言ってくれたのが、せめてもの救いだった。自分の中で、力をこめて書き上げたのは、「Gridley Battlefield」という息子の野球のフィールドを戦場にたとえた詩だ。息子の野球の詩2編と詩人長田弘氏の「夏の物語--野球」から少しインスピレーションを得て、書いてみた。おこがましいが、一部を紹介する。

       [ 略 ]
             My son throws a fastball into the middle of the catcher's mitt.
             The heavy sound of the ball echoes against leather.
             The frightened enemy bends backward.
       [ 略 ]
             In the third inning, two outs, bases loaded,
             My son stretches his arms and legs,
             in front of the batter's box.
             Glaring at a ball, turning out to be weak prey,
             he concentrates.
             Here comes his next victim.
             Time, his ally, stops.
             My son sees everything moving in slow motion. 

       [ 略 ]      

       (from "Gridley Battlefield," by Kuniko Baba)


ハーパーカレッジで年一回だしている創作雑誌「ポイント・オブ・ビュー」 。 数百の応募の中から、教授や生徒で構成された審査員で文学作品、絵画、彫刻、 陶芸、インスタレーションなどのいい作品を厳選する。 他の大学からの評価も高い雑誌で、参考にされるという
 また、今年の春に初めて広島の町を訪れたときの印象を書いた詩は、かつて留学したときに書き上げた原爆の詩「Pika-don」の続編となった。

 おとどし初めて詩のクラスをとったときの教授の薦めやアメリカ人の学生たちに原爆のことを知らせたい一心で、去年のハーパーの創作雑誌「ポイント・オブ・ビュー」(2005−2006)にその原爆の詩を投稿した。その雑誌に掲載されたので、アメリカ人もそういう詩を受け入れてくれるのだとわかり、戦争を知らない私たちの世代でも少しでも英語に直して伝えていけることがあるのだと実感した。心を込めて書いた「Hiroshima in Early Spring of 2007」の一部を紹介する。

      [ 略 ]

      The Atomic Bomb Dome stands alone,
             blurring sharp, green skyscrapers
             pink petals of cherry blossoms.
             The Dome looks down on us.

             With broken legs and arms,
             the Dome can stand,
             with highest dignity. 

               [ 略 ]
             I can hear the Dome's murmur
             from the deep, pure ground.

            The Dome lives alone,
            watching flying doves and cherry blossoms
            every spring and forever.


      (from "Hiroshima in Early Spring of 2007," by Kuniko Baba)

  私は、シカゴにきて5年を過ぎて、久しぶりにつたない創作を試みたが、このたった2ヶ月のクラスのファイナル・プロジェクトのおかげで、自分の小さな作品集ができあがり、シカゴ生活の大きな宝物になったような気がする。シカゴで考え、体験したことが文字となって残せることに大きな喜びを感じている。

*この記事に掲載したすべての詩は、作者の了解を得て、このサイトに載せていますので、無断で他に転記することを禁じます。

                                     文・写真:馬場邦子



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