シカゴ音楽三昧記
ジャズ、ブルース、ロック、R&B、クラシック、ミュージカル、オペラ・・・シカゴはさまざまな音楽の宝庫。この新連載では、音楽なしでは生きていけない編集長自らが日々体験したシカゴでの音楽ライブを、逐次レポートしていきます。どうぞお楽しみください♪
●Text & Photo/ Shoko Nagano
(※ENGLISH)

<第7回> バディ・ガイ 〜@Buddy Guy’s Legends (2015. 1月) 〜 
       



1月は恒例の「バディ・ガイ月間」

 シカゴの、いや世界のブルース界の頂点に君臨するブルース・ギタリスト、バディ・ガイ。ブルースのことをあまり知らなくても、彼の名はどこかで聞いたことがあるという人も多いだろう。グラミー賞6回受賞、2005年には「ロックの殿堂」入りを果たすなど、最も成功したブルース・ミュージシャンのひとりだ。1936年6月生まれ、78歳になった今もバリバリの現役で、毎年1月は自らが経営する市内のクラブ「バディ・ガイズ・レジェンズ」で、毎週末ステージに立つ。(2015年は計16日間) この恒例の「バディ・ガイ月間」に、今年初めて潜入することができた。

 1月17日土曜日。この日の出演者は、正午からのマイク・ウィーラー(アコースティック)に始まり、女性パワーギタリストのジョアンナ・コナー(6PM)、ジョン・プライマー(9:30PM)、そして締めがバディ(11PM)という、ブルースファンにはたまらない豪華かつバラエティーに富んだ顔ぶれ。もちろんチケットは早々とソールドアウト。午後8時にクラブに入るとまだ店内は普段と変わらない様子だったが、9時をすぎた頃には立錐の余地もないほどのお客さんで店はもう歩くのもやっとという状態になっていた。今まで数えきれないほどこの店に来ているが、ここまでのにぎわいを見たことがない。



実は”あがり症”
 友人の写真家、ポール・ナトキン氏が、私を2階にあるバディのオフィスに案内してくれるという。彼はバディの30年来の友人でありオフィシャルフォトグラファー、1月中は毎日ここに通っている。「出演前にお邪魔じゃないの?」と遠慮する私に、「気にすることはないよ。今頃は気持ちを落ち着かるために一杯飲ってる頃さ」と言う。「バディはああ見えてステージフライト(あがり症)なんだ。だからいつもステージに上がる前には軽くひっかけて気持ちを落ち着かせるのさ。」バディが“あがり症”―何とも信じがたい話だが、彼も人の子なのだとちょっと安心した。

 彼のオフィスには大きなTVスクリーンとミニ・バーがしつらえられていて、ちょっとした専用ラウンジのようだった。ソファーにゆったりと腰かけたバディが私を見て「君も飲むかい?」と愛飲のレミー・マルタンを勧めてくれた。(これか、彼がいつもステージでひっかけているのは・・・)「日本にはまた近々行きたいねぇ」そう言って、あの独特の笑顔。(バディの最後の来日は2012年夏の「フジ・ロックフェスティバル」) 私がバディを日本で最後に見たのは、かれこれ20年以上も前のことだ。 渋谷の小さなライブハウスだった。あれから月日が経ち、今シカゴで彼とこうしてレミー・マルタンを飲んでいるとは、何とも不思議な気分だ。


顔芸

 そのバディ。ひとたびステージに出るや、そのエンターテイメント魂はもう誰にも止められなかった。“Damn Right, I’ve Got the Blues”、“Someone Else Is Steppin' In”と、のっけから腰を突き出し口をくねらせ、グイグイ客を煽る。待ってました、と熱狂する観客。たちまち店の中が一体感に包まれていく。彼らは世界中からわざわざこれを見に極寒のシカゴに来ているのだ。マイナス20℃になろうが何だろうが、早朝からクラブの前に並ぶのだ。その熱い想いに応えるように、バディはギターをうねらせ、語り、外にまで響き渡るような艶のある声で客を喜ばせる。今まで大きなフェスティバルで見た“よそゆき”の彼とは全く違う。自分の家にきてくれた客人を全身全霊でもてなす姿がそこにはあった。

 “Five Long Years”でスローブルースを、続く「俺は74歳」と歌う“74 Years Young”では歌の途中で、「ちょっと待った。これは4年前の曲だから、今は“78 Years Young(78歳)”だもんね」と茶目っ気たっぷりに歌い直す。このあたりのお決まりのギャグも、もはや伝統芸。


 ステージ後半は、アコースティック・ギターに持ち替えて古き良き昔を懐かしむかのように、ハウリン・ウルフなどのシカゴ・ブルースの名曲や、マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダーなどのモータウンサウンドをたて続けに弾き語りで聴かせてくれ、観客も大合唱。バディのアコースティック弾き語りを間近で見られる機会も、このショウならでは。最初から最後まで一時も飽きさせないステージングのうまさは、さすがのショウマンシップだった。
(個人的にはアカペラで“Blues In The Night”が聞けたことが一番うれしかった)
例の“お練り”も念入りに。
スーツは毎日違う色。クローゼットには16枚・16色のスーツがズラリと並ぶ。



「ブルースをやるのに、黒人も白人もない」
 1月30日、再度クラブを訪れた。この日のオープニングアクトは、バディが全面サポートしているギタリスト、クイン・サリバン。ボストン出身、若干16歳の紅顔の美少年だ。バディは、クインが7歳の時にその才能を見出し、自らプロデュースを買って出たという。
 あれから約10年。すっかり大人っぽくなった彼は、超満員の観客を前にバディのバックバンドを従えての堂々のステージを披露した。ブルースは往々にして“枯れてなんぼ”と言われるが、若さこそ人生に一度の宝。そのエネルギーとたぐいまれなテクニックを存分に音にぶつけたステージは好感が持てた。観客もこの才能あふれる若者の音に素直に酔いしれ、心から拍手を贈る。アメリカの、こういった子供扱いしない大人の文化は何度見てもすがすがしい。



ディの秘蔵っ子、クイン・サリバン。「日本にもいつか行きたい」と目を輝かして話してくれた。
ステージからおりると素の高校生。“ギターオタク”そのままの、線の細さに思わずびっくり。これからどこへ進むのか、どんなギタリストに成長していくのかが楽しみ。

         うれしそうに“ギター対話”するふたり
  
 

 
クイン君のあとに登場したバディは、観客にこう語り始めた。
 「(クインをサポートしていて)よくこう聞かれるんだ。“白人にもブルースは演奏できるんですか?”ってね。音楽に白人も黒人もあるものか。もしオレに指が6本あるってんなら別の話しだけどよ。彼(クイン)はブルースを演れる、それだけのことさ」
 キース・リチャーズやエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、スティーヴィー・レイ・ボーンなど、多くの白人ギタリストから慕われ、共演し、成功を収めてきたバディらしい言葉だった。先日のステージでは、デヴィッド・ボウイのバンドギタリストであるアール・スリックが飛び入りしたが、その時もこんなことを言っていた。
「俺のステージを見に来てくれる友人はいつでもウェルカムさ。ここの扉はいつも(ミュージシャンのために)開かれているからね」

 ミュージシャンに限らず、偉大な人には往々にしてある共通点がある。それは「出逢いを大切にする」ということ。人種や年齢、性別にかかわらず、「人が好き」なのだ。音楽で結ばれた出会いの糸を決して切り捨てない。それがバディの今の地位を作ったといっても過言ではないだろう。
「バディは人と会うのが大好きなんだ。ツアーがオフの日は家でのんびりなんてせず、必ずこの店に来てお客さんとおしゃべりを楽しむのさ」と、ポール氏が話してくれた。



デヴィッドボウイのバンドギタリストであるアール・スリックが飛び入り。(1/17)
62歳になるアールも、バディと一緒に演奏しているときは“ギター小僧”に見えてくるから不思議だ。








ここ数年、息子のグレッグとの共演も多くなった。
うしろでそっとバッキングサポートをするバディに、父の顔を見た。


若さの秘訣は、自分で作るヘルシー料理
 それにしても、連夜の90分にも及ぶステージをこなすこの体力、肌艶の良さ、色っぽさには驚かされる。いったいこの秘訣はどこにあるのだろうか。ポール氏によれば、バディは料理が得意で、健康に気を遣ったスペシャルメニューを全部自分で作り、客人にもふるまうこともあるという。徹底した体調の自己管理と、多くの人たちと接して感性を磨き続けること。これが彼の若さと色気の秘訣だったのだ。


 今年(2015年)の第57回グラミー賞において、ジョージ・ハリスン、ビー・ジーズらとともに特別功労賞生涯業績賞(Lifetime Achievement Award:生涯を通して録音音楽の分野で顕著な功績のあった人に贈られる)を受賞するバディ。2012年には、アメリカの芸術分野において優れた功績を遺した人に贈られる「ケネディ・センター名誉賞(Kennedy Center Honors)」を受賞するなど、近年はアメリカ文化に残した功績を称えられる機会が増えた。だが、ひとりのブルースマンとしてのあくなきステージ欲は依然として衰えることはない。どんなに名声を得ようとも彼は、約60年前にルイジアナから片道切符でシカゴにやってきたひとりのギター少年、“ジョージ・ガイ”であり続ける。



(c)Paul Natkin
シカゴブルースを代表する二人、バディ・ガイとハーモニカ奏者の故ジュニア・ウェルズ(1992年)
ふたりは60〜70年代の全盛期を共に過ごした盟友だった。





■ Buddy Guy's Legends (バディ・ガイズ・レジェンズ)


700 S. WABASH, CHICAGO, IL, 60605
Tel: 312 427-1190
カバーチャージ: $10 (日曜〜木曜)、$20 (金曜〜土曜)
正午〜2PMのアコースティックセットは無料 (水曜〜日曜)
ヂィナータイム: 5:30pm 〜(金曜) 、6pm 〜(土曜)
日曜はJazz Party:5pm-8pm.
ショウタイム:9:30pm〜0:45am(月曜〜木曜)、9:00pm〜1:15am(金曜)、9:30pm〜2:00am(土曜)
詳しくは: http://www.buddyguy.com/



■ 「Buddy Guy's Legends」で行われているライブを、インターネットが見ることができます。
過去のライブは「アーカイブ」からご覧ください。
https://gigity.tv/buddyguyslegends







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