シカゴ音楽三昧記
ジャズ、ブルース、ロック、R&B、クラシック、ミュージカル、オペラ・・・シカゴはさまざまな音楽の宝庫。この新連載では、音楽なしでは生きていけない編集長自らが日々体験したシカゴでの音楽ライブを、逐次レポートしていきます。どうぞお楽しみください♪
●Text & Photo/ Shoko Nagano


<第1回> シカゴ・ブルース・フェスティバル 2013 (2013.6.6-6.9)

 “Blues Capital(ブルースの首都)”とも呼ばれるシカゴに世界中のブルースファンが集まってくるのが、毎年6月初旬に行われる「シカゴ・ブルース・フェスティバル」。約50万人の人出でにぎわうこの世界最大規模にして無料のブルース・フェスティバルの会場となるのは、シカゴ市が国際都市としての希望と象徴として長い年月をかけて作り上げた傑作といわれる、ミシガン湖畔のグラント・パーク。この時期は、ミシガン湖からそよぐ風がすがすがしく最も過ごしやすく美しい。この中に設けられた大小5つのステージで、シカゴ内外のブルースアーティストが熱いパフォーマンスを繰り広げるのだ。

 
今年のフェスは6月6日のプレイベントから始まり、9日までの4日間で行われた。まず、プレイベントに登場したのが今最も注目株の若手の歌姫、シェメキア・コープランド(Shemekia Copeland)。2012年に発表したアルバム『33 1/3』が、今年のグラミー賞ベスト・ブルースアルバム賞にノミネートされ、現在絶好調。夕涼みを楽しむ仕事帰りのシカゴアンや、ブルース・フェス前夜を軽く流しにやってきた観光客ら数千人に届けとばかりに、最後はマイクなしでステージから絶唱。若さと歌唱力が観客を圧倒した。



6月7日(Day1)

昼間は地元のバンドの演奏をはしごし、夕方からメイン会場(Petrillo Music Shell)で行われたアーマ・トーマス(Irma Thomas)と、続くボビー・ラッシュ・バンド(Bobby Rush and his Blues Band)を見る。

 アーマ・トーマスはニューオリンズの生んだソウル&ブルースの女王。ゴージャスな声とは彼女のようなことをいうのだろう。力任せにハイノートをシャウトするそのあたりのシンガーと違って、彼女は丁寧に言葉を紡いでいく。そしてその言葉のひとつひとつに魂がこもっていて、五臓六腑にしみわたる。派手さはないけれどしっかりと想いが届く。 昨年彼女をシカゴで見たとき、"I sing to the people, for the people, not above the people." (聴いてくれる人に向かって、その人たちのために歌うの。決して頭ごなしに聴かせようとするんじゃないわ)と語っていたのを思い出す。

 続くボビー・ラッシュ。言葉は悪いが期待通りの“色モノ”ぶりをいかんなく発揮してくれた。ダイナマイト・セクシーダンサーを従えて、早替わりよろしくある時はマイケルジャクソン、そしてあるときはジェイムスブラウンになりきり歌い、踊り、おどけて見せ会場を沸かせる。まさにエンターテイナーだ。ショーのあとはすっかり魂を抜き取られてしまった(笑) 









                 
 さて、ボビー・ラッシュにすっかりあてられたあとは、場所をサウスのライブハウス“Reggie’s”に移し、今夜の特別企画「Women In The Blues Festival」をのぞいてみる。何かと男性優位なブルースの世界だが、どっこいシカゴにもパワフルな女性ブルースミュージシャンは数多い。そんな彼女たちが集結、男性に負けじと熱いライブを繰り広げた。


(左)Demetria Taylor 
(中央)シカゴの女性ハーピスト、Ellen Millerと パワフルシンガー、Liz Mandeville
(右)かつて、あのティナ・ターナーの後釜に指名された、Holle 'Thee' Maxwell 

ブルースの女王、故ココ・テイラーが設立し、長年にわたりブルースミュージシャンたちの生活費や医療費などを支援してきたKoko Taylor Celebrity Aid Foundation (ココ・テイラー基金)”の貢献に感謝し表彰式が行われた。右から2番目がココの娘、クッキー・テイラー


6月8日(Day2)

 会場から徒歩圏内にある、シカゴの有名ブルースクラブ「Buddy Guy’s Legends」で遅めのスタート。ここではブルース・フェスの期間中、特別に昼間のライブプログラムを組んでシカゴの有名ブルースミュージシャンたちが出演しているので要チェックだ。しかも入場無料。
 
 ここで見たのが、シカゴで20年以上にわたり活躍するブルースハープの名手、マシュー・スコラー(Matthew Skoller)バンド。ソングライターでもあるマシューのオリジナル曲は、トラディショナルなブルースとはまた違った独自のメッセージを放っていた。彼の古き良き友人でもあるビル・シムズ・ジュニア(Bill Sims Jr.)がNYから特別に参加、渋いスライドギターとジャジーなピアノを聴かせてくれた。

バンドメンバーは個々に超一流のミュージシャン。なかなか普段一同に会しては見られない。(左から)ビリーフリン(Billy Flynn)、マシュー・スコラー、Brian “BJ”Johns(ブライアン・ジョーンズ)、フェルトン・クルーズ(Felton Crews)、ビル・シムズ・ジュニア(Bill Sims Jr.)

 余韻に浸りながらフェス会場に戻って、今日の締めにメイン会場でOtis Clayバンド、The Bar-Kays (with special guests Eddie Floyd and Sir Mack Rice)と立て続けに見る。
 オーティスは80年代に一世を風靡したシカゴのベテランソウル歌手。70年代には日本で人気に火がつき、何度も来日を果たしている。71歳とは思えない、ゴスペルに裏打ちされた力強く感情豊かな歌唱は、野外のステージの隅々にまで届いた。

 続くThe Bar-Kays。1966年にメンフィスで結成されたR&B、 ソウル、ファンクバンドで、67年にはオーティス・レディングのバックバンドとして活動を共にした(不幸にも67年の飛行機事故でメンバーのほとんどが死亡。その後再結成された。)

 この夜は60年代ソウル、70年代R&B、80年代のディスコといった往年のヒット曲をこれでもか続け、会場はさしずめ巨大な大興奮野外ディスコ状態に。あたりかまわず踊り狂う観客たち。アメリカの音楽の歴史の真っただ中にいる気がした。


6月9日(Day3))

 ついに最終日。大好きなミュージシャンたちが総ラインナップで大忙しだ。

1-2pm - Lurrie Bell’s Chicago Blues Band
2:30-3:45pm - John Primer Trio & Michal Prokop Trio (Czech Republic)
3:30-4:30pm - Big Time Sarah and Mike Wheeler Blues Band
4:15-5:30pm - Magic Slim Tribute featuring Shawn Holt & The Teardrops
4:15-5:30pm - Linsey Alexander Blues Band
6:35-7:35pm - Jimmy Johnson Band
8-9:30pm - Chicago Blues: Old School, New Millennium
James Cotton, John Primer, Billy Branch, Eddy "The Chief" Clearwater, Lil'Ed, Deitra Farr, Demetria Taylor, Matt Skoller, Johnny Iguana,Billy Flynn, Felton Crews, Kenny“Beedyeyes”Smith

 
まずは、今シカゴで最も熱いギタリスト、ルリー・ベル(Lurrie Bell)。言わずと知れたハーモニカの名手、故ケアリー・ベルの息子で、7歳から父親と一緒にプロとして活動を始めた。昨年発表したアルバムの『THE DEVIL AIN’T GOT NO MUSIC』のタイトル曲は、2013年ブルースファウンデーションの選ぶベストブルース楽曲にノミネートされ、彼自身も2012年、リビング・ブルース・アウォードの男性ブルースアーティスト・オブ・ザ・イヤーに選出されている 
 いや、そんな世間の作った評価などどうでもいいのだ。“ゴスペル・ブルース”とも呼ばれる、ルリーの魂の叫びとピックなしで弾く力強いギターサウンドは、まさにhaunting(一度聴くと忘れられない)。今月には新しいCDもデルマークからリリースされ、ますますシカゴの宝になっていく人だ。


John Primer(ジョン・プライマー) 
マディー・ウォータース・バンドのギタリストを長年務めたベテラン。脂がのりきっている、円熟を極める、という言葉はこういう人のためにあるのだ、と思わせてくれる。今回はチェコのブルースバンドとの共演という珍しいコラボだった。どことなくヨーロッパの香り漂う、インターナショナルなブルースはまた別の世界で、それはそれでとても心地よい。


2月に亡くなった偉大なギタリスト、マジック・スリムのトリビュートバンド、“Magic Slim Tribute featuring Shawn Holt & The Teardrops”。マジックの息子のShawn Holtと、バックバンドだったThe Teardropsの共演。

Linsey Alexander Blues Band。
場内練り歩きもいつも以上に念入りに。ブルースのみならず古いR&Bやロック、Popsまでわかりやすい選曲と抜群のステージセンスで場を盛り上げる彼の隠れファンは多く、とにかくものすごい人だ。まさにフェスティバル向きのキャラ。

 さて、いよいよ今晩のメインステージに場所を移す。
 まずは、私の大好きなギタリスト&シンガーのジミー・ジョンソン。84歳にして驚愕のヴォーカルクォリティー。見た目はちょっと地味だけれど、いったん歌い始めると誰もがのけぞるその高音。これぞシカゴブルースという音をじっくりと聴かせてくれた。「Thank you」を口で言う代わりにギターで音真似して口パクする芸当は、あの「横山ホットブラザーズ」を髣髴とさせる。(え?知らない?)

 そして、今年のフェスティバルのオーラスを締めくくったのは、"Chicago Blues: Old School, New Millennium"。シカゴブルースのベテラン世代と次代を担うミュージシャンが豪華総出演のステージ。 2009年、2011年と相次いで発売され、グラミー賞にもノミネートされたブルースの名盤『Chicago Blues: The Living History』をプロデュースした、ハーモニカプレーヤーのマシュー・スコラーが、プロデュースと進行役を務めた。

 まずは、若い世代を代表して、歌姫Demetria Taylor(デミトリア・テイラー:伝説のブルースマン、エディー・テイラーの娘でシカゴの若手歌手ナンバーワン)がパンチの利いた声で力強くステージの幕を開け、マシューがハーモニカで花を添える。
 エディー・クリアウォーター、デイトラ・ファー、ビリー・ブランチ、ジョン・プライマーとベテラン勢がそれに続く。

(左から)エディー・クリアウォーター、ビリー・ブランチ、ジョン・プライマー



(右)シカゴを代表するブルースディーバのデイトラ・ファー。彼女が歌い始めるや、会場がたちまちその声にやさしく制圧されていった。昨年のブルース・フェスでも、ブルースの女王、故ココ・テイラーのトリビュートステージに4人のディーバたちのひとりとしてステージに立ったが、彼女の歌は他の3人を圧倒する魅力があった。ソウル〜ブルースを歌い続けて40年近くの超ベテランは、今も進化を続けている。 

 そして、満を持しての真打登場で場内が一段と盛り上がる。ご存知、伝説のハーモニカプレーヤー、James Cotton(ジェームス・コットン)。50〜60年代にマディ・ウォーターズのバンドに在籍、その後も自らのバンドを率いて活動を続け、シカゴブルースのハーモニカ奏者の地位を不動のものとした大ベテラン。彼を師と仰ぐブルースマンも多い。90年代半ばに咽頭がんの手術をして以来歌えなくなったものの、今でも力強いハーモニカを聴かせてくれる。  
 
          
           最後は出演者勢のJamで盛大に締めくくった

※ここからフフィナーレの様子が見られます。
https://www.youtube.com/watch?v=r5s4VPIHm8Y&feature=youtube_gdata_player


●After Fest
 さて、ブルースファンにとってもう一つのお楽しみといえば、ブルースクラブ各所で行われるアフターフェス・プログラム。この晩は、“Reggie’s”で行われた「デルマークレコード60周年記念専属ギタリストライブ」にてブルース・フェスを締めくくることにした。ちょうどさきほどオオトリを終えたばかりのマシュー・スコラーやビリー・ブランチらミュージシャンたちもここに集結して、軽い打ち上げ中。
 「今日は素敵な演出をありがとう」とマシューにねぎらいの言葉をかけると、さすがに緊張が解けたのかこの時ばかりは彼もやっとホッとした表情を浮かべていた。

(左)ギターで会話を楽しむBilly FlynnとJimmy Johnson
(右)Lurrie Bellと、飛び入りしたBilly Branch


 ここ数日休みなくダブルヘッダー、トリプルヘッダーを続けていたブルースマンたち。相当疲れているはずなのに、いったんステージに立つと誰にも止められないらしい。かくしてギターバトルは深夜まで続いていった。いったいこの人たちはいつ休んでいるんだろう・・・。

ありがとう、シカゴ。ありがとう、ブルース。See you next year!


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